「背中の扉を開く」
2007.12.04 Tuesday
パク・チャヌク監督の映画、「サイボーグでも大丈夫」は、復讐三部作の後に作った、監督いわく”小さな作品”ファンタジックラブコメディーだ。アジアトップスターのRain(ピ)本名チョン・ジフンの映画初主演。イム・スジョンちゃんを相手役に、どこかユートピアの趣のある、カラフルな新世界精神クリニックを舞台に、迷走する魂が、やがて虹の向こうに微かな未来を予感させる・・・
ヨングン(イム・スジョン)は自分がサイボーグだと思い込んで、ご飯を一切食べず、ひたすら電池を舐めて、身体はどんどん弱っていく。イルスン(チョン・ジフン)はそんな彼女を救おうとライス・メガトロン(ご飯をエネルギーに変える装置)を作り”生涯アフターサービス”付きで、ヨングンの痩せた背中の扉を開けてこのマシンを取り付けてあげることに成功する!!
チョン・ジフンは、あのセクシーで魅力的なダンスと歌を封印して、未熟ながらも心やさしいアンチ・ソーシャル少年を精一杯演じている。
イム・スジョンは、将来韓国を代表する大女優になるであろうことを、予感させる演技だ。
監督の映画には、残酷で目を覆いたくなる場面と、シュールで美しい場面が混在する。「オールド・ボーイ」でカン・ヘジョンが、等身大のアリと地下鉄で乗合わすシーン、「親切なクムジャさん」でイ・ヨンエが豆腐の形のおおきなケーキに顔から突っ伏すシーン、「サイボーグ・・・」でイム・スジョンがヨーデルの歌声にのって、大きなテントウムシに広い草原に運ばれてゆくシーン・・・
幾度も幾度もフラッシュ・バックされ、もはや自分の体験のようだ。
そして、気がつけば私も新世界精神クリニックの住人だ。食堂のごはんのおかずは、必ず大根の水キムチ。ポリポリポリ・・・
イルスンは私の背中の扉も開けてくれるだろうか・・・
「プラハ危機一髪」
2007.02.28 Wednesday
チェコのプラハは、想像どおり美しい街だった。
一人で知らない初めての国を歩き回るのが大好きだ。
プラハのメトロは、A,B,Cの3路線。
色分けされていて、とてもわかりやすい。
私は1週間ほど滞在するので、7Daysのフリーパスチケットを買った。
最初の1回刻印するだけで、後は改札を素通りして何回でも乗り放題だ。
一人旅なので、夜はあまり出歩かないのだけれど、
今夜は楽しみにしていた国立マリオネット劇場へ行く日だ。
夜8時開演なので、夕方一度ホテルに戻り、
7時に再び出発する。
C線からA線に乗り換えたとたん、
6人ぐらいの男達に取り囲まれて身動きが出来なくなった。
いったい何が起きたのか?!
思わず日本語で「助けて!」と叫ぶ。
状況に気が付いた勇敢なチェコ人の若い女の子が
もがいている私の手を思いっきり引っ張って、
男達のスクラムから引きずり出してくれた。
女の子は、「財布は盗られていないか?」
と心配してくれる。
私は震える手でリュックの中を確かめる。
前ポケットのファスナーは開けられていたけれど
財布とパスポートは、リュックの奥のほうに入れていたので無事だった。
前ポケットに入れていた食べかけのチョコレートと、命も無事だった・・・
あの時、女の子が助けてくれなかったらと思うと、本当にこわかった。
男達は、次の駅で、無言で去っていった。
マリオネットの劇は、とってもよかったけれど、
またメトロに乗るのかと思うとちょっと気が滅入る・・・
でも帰りはお芝居を観た大勢の人達が楽しかった余韻を
駅のホームにまで運んできていたので、
無事にホテルまで生還できたのでした。
この一件以外は、チェコのみなさんは、みんな親切でいい人ばかりだった。
メトロの乗り降りは、幾分用心するようになったけれど、
帰国の日まで、元気にプラハの街を満喫したのでした。
「キャッチボール」
2006.10.23 Monday
女の前に、初めて男が現れたとき、赤いボールを投げてよこした。
そのボールは、艶やかに熱を帯び、受け取るとずしりと思い。
投げ返すたび、女の体から少しずつ熱が奪われてゆくようだった。
年月を経て、男が再び現れたとき、今度は青いボールを投げてよこした。
そのボールは、冷たくて受け取った時、水の匂いがした。
幾度も投げてよこすけれど、指の間から流れ落ちるばかりだった。
もう本当に記憶が遠のいた頃、三度男は現れた。
季節も方角も常識も全く無視した渡り鳥みたいだ。
今度は灰色のボールを投げてよこした。
硬く古びていて、ボールというより小さな飛礫だ。
必死に受け取ろうとするけれど、女の手はみるみる傷だらけになってゆく。
遂に血だらけになった女の姿を、男は微笑んで満足げに眺めている。
そして、いつものように去ってゆくのだ。
女の命が滅びるまでに、男は又現れるのだろうか。
どんなボールを投げてよこすのだろうか。
女はからだに残された傷跡を確かめて、
時々そっと触れ、いとおしく思うのだ。
映画「花よりもなほ」の孫三郎の腹掛け
2006.06.22 Thursday
是枝裕和監督の「花よりもなほ」を観た。
元禄時代、赤穂浪士の討ち入りの年の、
芸術的にボロボロな貧乏長屋を舞台に繰り広げられる群像劇だ。
ボロボロ長屋には、これまた芸術的なボロをまとった住人がいる。
敵を探すもの、世間から身を隠すもの、ごみ拾いや、物売り、
美貌の未亡人、かぶきもの・・・
それぞれの人間たちの状況は、十分絶望的で、
壁は崩れかけ、ひしゃげた戸板は開閉のたび外れるけれど、
なんだか毎日、住人達の生活には、笑いがある。
岡田准一演じる若者の、幸せに生きていくためのアイデンティティの転換を軸に、
是枝監督は、人間達を、暖かく表現していく。
まるで子どものまんまの木村祐一演じる孫三郎はの腹掛けは、
みんなの着物の切れ端のパッチワークみたいなのや、お花の刺繍のついてるのや、
色あせているけれど、とってもキュートで、とってもおしゃれだ。
ハラペコなことが多いけれど、きっといつも温かいに違いない。
ラストシーン、宗左衛門(岡田准一)の笑顔が、
弱っている心を、やさしく温める。
まるで孫三郎の腹掛けみたいに。
「雨男」
2006.06.13 Tuesday
男のPCは少しがたがきている。
あるホームページにアクセスするとTopのページは、雨が降っていた。
七色の雨粒がぽたんぽたんと落ちてくるFlash画像だ。
単純だけど、そう悪くない。
それから季節が変わりFlash画像も幾度か更新された。
花が咲いたり、落葉したり、小さな嵐が来たり、
クマがプロポーズしたり、クジラがダイエット体操をしたり・・・
でも男の見る画面だけ、何時までたっても雨が降り続いていた。
不思議に思い、しばらくは色々な方法を試してみる。
ファイルを削除したり、更新ボタンを押したり、
なだめたりすかしたり、てるてる坊主をそばに置いたり・・・
結局、あきらめて、今でも時々、変わり映えのしない画面を眺める。
降ったり止んだり、降ったりやんだり、降ったりやんだり・・・
降りやますすべはないが、
今では傘をさして画面に紛れ込み、雨の匂いを嗅ぐ事だって出来るようになった。
私は男を、雨男(あめお)と名づけた。